熱平衡状態の核スピン

NMRの基礎

NMRでは、対象とする系にたくさん(\(N\)個)の核スピンが存在する状況を考える。
ここでは、磁場中で十分な時間が経って熱平衡状態にある、スピン量子数\(1/2\)のスピン系がどういった状態にあるかを考える。

静磁場(\(B_0\))中では、ゼーマン分裂によってスピン量子数\(I\)の核スピンのエネルギー準位は\(2I+1/2\)の状態に分裂することが知られている。今回の場合(\(I=1/2\))、核スピンは二つの状態に分裂し、\(\left|{1/2}\right\rangle\))と\(\left|{-1/2}\right\rangle\)のどちらかを取る。このとき、二つの状態間のエネルギー差\(\Delta E\)は核スピンの磁気回転比\(\gamma\)を用いて\(\Delta E=\hbar\gamma B_0\)である。(\(\hbar\)はディラック定数である。)

核スピン(青丸)が静磁場(\(B_0\))中に入れられてから(左)、熱平衡化するイメージ(右)

磁場に入れて十分に時間が経過した熱平衡状態(図を参照)では、このスピン系はボルツマン分布に従う。この時のスピン数の比は、ボルツマン分布の式から

$$\frac{N_{1/2}}{N_{-1/2}}=\exp(-\frac{\Delta E}{k_B T})=\exp(-\frac{\hbar\gamma B_0}{k_B T}) $$

となる。NMRの低い感度の理由としてしばしば議論されている、核スピンのそろい具合(偏極率\(P\))の式もここで紹介する。NMRの信号強度は偏極率\(P\)に比例する。

$$P=\frac{N_{-1/2}-N_{1/2}}{N_{-1/2}+N_{1/2}}$$

熱平衡状態の式を用いることで、

$$P_{th}=\frac{N_{-1/2}-N_{1/2}}{N_{-1/2}+N_{1/2}} =\frac{N_{-1/2}/ N_{1/2} -1}{N_{-1/2}/ N_{1/2} +1} =\frac{\exp(\frac{\hbar\gamma B_0}{k_B T})-1}{ \exp(\frac{\hbar\gamma B_0}{k_B T}) +1} =\tanh{\left(\frac{\hbar\gamma B_0}{2k_B T}\right)}$$

という式を得ることができる。

では、よく分析で使われる9.4 T(400MHz)の磁場、室温(300K)における水素核スピンの偏極率を計算してみよう。

分子(\(\hbar\gamma B_0\))と分母(\(2k_B T\))はそれぞれ、

$$ \hbar\gamma B_0 \simeq 2.5\times10^{-25} \\
2k_B T\simeq 8.3\times 10^{-21} $$

となるため、\(P_{th}\simeq 3.0\times10^{-5}\)と計算できる。つまり、9.4 Tという非常に高い磁場下であっても、各エネルギー差におけるスピン数の差は2万スピンに一つ程度の差しかないということになる。
これが、NMRの感度が低いと言われる理由の一つである。

計算ではゼーマン分裂(磁場)によるエネルギー差が熱エネルギーよりも4桁も小さいことに由来している( \(\hbar\gamma B_0 \ll k_B T \))。多くの場合で、この条件は成り立っている。\(tanh(x)\)は\(x\ll1\)において、 \(tanh(x)\simeq x\) と近似できることを考慮すると、室温において偏極率は次のようになり、磁場に比例し、温度に反比例していることがわかる。

$$P_{th}\simeq\frac{\hbar\gamma B_0}{2k_B T}$$

以上で、磁場に入れたときの核スピンの状態についてである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました