熱平衡状態の核スピンで述べたように、NMRの感度の低さの要因の一つに、核スピン偏極率の低さがあります(9.4 T(400MHz)の磁場、室温(300K) で\(3.0\times10^{-5}\)程度)。スピン1/2をもつ核スピンの偏極率は次の式で与えられます。
$$ P_{\rm{th}} =\frac{\exp(\frac{\hbar\gamma B_0}{k_B T})-1}{ \exp(\frac{\hbar\gamma B_0}{k_B T}) +1} =\tanh{\left(\frac{\hbar\gamma B_0}{2k_B T}\right)} $$
そのため、この問題を愚直に解決しようとすれば、めちゃくちゃ低い温度で、すごく高い磁場にもっていくことによって、静的に高い偏極を準備することができます。水素核スピンについて、核スピン偏極率と磁場温度の関係をプロットしてみると、次のようになります。
室温では磁場20Tを準備したとしても、0.01%にも満たず、1K, 20Tといった環境でようやく1%を達成できると言った所でしょうか。サンプル中の核スピンのうち99%以上のスピンの信号が打ち消しあって見えなくなっているのはやはりNMRの残念なところですね。
このように、熱平衡状態を使って高い偏極率を得るのは非常に難しいところがあります。
電子スピンの持っている高い偏極を核スピンに動的に移すことによって高い核スピン偏極率を準備するのが動的核偏極です。
電子スピンの持つ偏極率の温度磁場依存性は次のようになっています。
水素核スピンと違い、3 K, 10 T程度で90%以上の偏極率を持っています。これは、電子スピン(\(\gamma_e\))の磁気回転比が水素核スピン (\(\gamma_{\rm{H}
}\)) に比べて約660倍の大きさを持つことに由来します。
$$ \left|\frac{\gamma_e}{\gamma_{\rm{H}}}\right|\simeq 660 $$
この電子スピンの偏極を核スピンへと移すのは、マイクロ波照射によって行います。下に、電子スピンと核スピンのエネルギー準位図を示しています。各準位は、\(|\)(核スピンの状態),(電子スピンの状態)\(\rangle\)となっています。
この図の大きなエネルギー差は電子スピンのゼーマン相互作用によるもので、小さいエネルギー差は核スピンのゼーマン相互作用によるものです。黒丸の大きさは電子スピン、核スピンの状態が各準位にいる確率を表しています。このときの核スピン偏極率は次のように計算できます。
$$ P_{n}=\frac{ N_{|1/2,1/2\rangle}+ N_{|-1/2,1/2\rangle}- N_{|1/2,-1/2\rangle}-N_{|-1/2,-1/2\rangle} }{ N_{|1/2,1/2\rangle}+ N_{|-1/2,1/2\rangle}+ N_{|1/2,-1/2\rangle}+ N_{|-1/2,-1/2\rangle} } $$
動的核偏極では、青線(赤線)のエネルギー差に相当するマイクロ波を照射することによって二つの状態が交換され、次のようになります。
この時の偏極率を上の式を用いて計算してみると、核スピン偏極率が電子スピンと同程度になることがわかります。
以上がDNPの大雑把な理解です。実際には、核スピンはマイクロ波照射中の緩和や電子スピンが二つDNPの機構に絡んでくることなどがあるみたいです。



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