密度行列法を用いた核スピン状態

ブラケット記法を使った核スピン状態では、静磁場中に存在する核スピン一つまたは複数のスピン間の量子状態が相関を持っている状態に対する状態の表記方法について述べてきた。
しかし、実際にNMR測定を行うサンプル中に無数の核スピンが存在しているし、その全ての核スピン状態が量子相関を持っているわけではない。

ここでは、そんなサンプル中の核スピン全体の状態を記述するのに用いられる密度行列法について述べる。ここでも、スピン量子数\(I=1/2\)の核スピン系で考えていく。

サンプル中に存在する核スピン立の状態が確率\(p_i\)である状態\(\left|\psi_i\right\rangle\)で存在するとする。密度行列法を用いてこの状態を表すと、
$$\rho = \sum_i p_i \left| \psi_i \right\rangle \left\langle \psi_i \right| $$
となる。

密度行列法が使われる具体例としては、静磁場(\(B_0\))中に置かれて熱平衡状態になった核スピンがある。熱平衡状態の核スピンで述べたように、静磁場中の核スピンは二つのエネルギー準位にボルツマン分布に従った確率で分布する。それぞれ分布する確率はボルツマン分布の式から以下のように得られる。

$$ p_{\pm\frac{1}{2}}=\frac{ \exp\left(\mp\frac{\hbar \gamma B_0}{2k_B T}\right) }{ \exp\left(\frac{\hbar \gamma B_0}{2k_B T}\right) +\exp\left(-\frac{\hbar \gamma B_0}{2k_B T}\right)} $$

よって、この時のサンプル中の核スピンの状態を表す密度行列は、
$$\begin{eqnarray} \rho &=& p_{\frac{1}{2}} \left| 1/2 \right\rangle \left\langle 1/2 \right| +p_{-\frac{1}{2}} \left| -1/2 \right\rangle \left\langle -1/2 \right| \\
&=& p_{\frac{1}{2}} \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 0 \end{pmatrix} +p_{-\frac{1}{2}} \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & 1 \end{pmatrix} \\
&=& \begin{pmatrix} p_{\frac{1}{2}} & 0 \\
0 & p_{-\frac{1}{2}} \end{pmatrix}
\end{eqnarray} $$

となる。次に、密度行列法で表される状態の物理量は次の式で得られる。

$$\begin{eqnarray}
\left\langle Q \right\rangle = \rm{Tr}\left[\rho Q \right]= \rm{Tr}\left[Q \rho \right]
\end{eqnarray}
$$

もちろん、この時に得られる物理量の期待値は、それぞれの状態に対する物理量に確率をかけて足し合わせたものと同じになる。

$$ \sum_i p_i \left\langle Q \right\rangle_i = \sum_i p_i \left\langle \psi_i \right| Q \left| \psi_i\right\rangle = \rm{Tr}\left[ \rho Q \right] $$

コメント